昨年11月13日に開催された「核ゴミ問題を考える北海道会議inさっぽろ」第三部は、アイヌ民族と北海道の大地-北海道の歴史から未来を考える-宇梶静江さん講演会を、18時30分より会場をかでる2・7ホールに移しておこなわれました。
宇梶静江さん(詩人・古布絵作家)は1933年に北海道生まれ、浦河郡姉茶村のアイヌ集落で過ごしました。1996年、アイヌ伝統刺繍の技法を基に、ユーカラに語られてきたアイヌの叙事詩を、古布絵として表現するオリジナルな手法を確立。以後、古布絵作家としての活動を展開、2011年には吉川英治文化賞を受賞されました。先住民としてのアイヌを意識した活動を続け、昨年北海道新聞にその半生の聞き書きが連載されました。俳優の宇梶剛士さんのお母さんとしても有名な方です。今回の核ゴミ問題北海道会議での講演をお願いしたところ、すぐにご快諾を頂くとともに、以下のようなメッセージを送って頂きました。
「北海道は二百年前まで汚れを知らない聖なる大地であった。それまで森羅万象は、林野を通して、風水をもって、生きる者たちを育み癒やしてくれた。これをわれわれはカムイの大地と呼び、敬ってきた。アイヌの先祖からの祈りの地である聖なるこの大地を汚してはいけない!」
当日の第三部の前半は、宇梶静江さんの講演が行われました。88歳とは思えない元気で張りのある声で、時にユーモアをまじえながら、「昔からアイヌモシリ(アイヌ民族の大地)を敬い、守ってきた。その大地が汚されたらどんなに悲しいか。アイヌや和人の先人たちが守ってきたこの大地を汚してはいけない」と強く訴えてくれました。
第三部の後半は、宇梶さんと本田優子さん(札幌大学教授)との対談がおこなわれました。本田さんは大学卒業後、平取町二風谷に移り住み、11年間、萱野茂氏の助手としてアイヌ語辞典の編纂に携わりました。萱野氏が、生前講演の中でいつも最後に原発についての話をしていたこと、いまになってその意味が理解でき、この核ゴミ問題についても関わっていかなければならないと思っていることなどを発言されました。
第三部の最後に、会場に参加されていたアイヌ民族の方々15名が宇梶さんを囲むかたちで壇上に上がり、白老アイヌ協会の理事長である山丸和幸さんをはじめとする数名がマイクを握って、アイヌ民族として北海道の核ゴミ問題についての思いを語られました。
山丸氏は、「一人の道民として、一人のアイヌとして、核のごみを持ち込ませてはならないという気持ちでこの場に立っている。みんなの先人が大事に守ってきたこの土地を守ろう。もし大地に異変が起きれば、地道に積み重ねてきた文化伝承などの活動も水の泡となる。アイヌ民族と和人の先人が守り、発展させてきた大地に核のごみ捨て場を造らせてはいけない」と語りました。
これまでアイヌ民族への差別や批判を懸念し、政治活動とは距離をとってきた方々が少なくないアイヌ民族が、今回の集会での宇梶さんの講演会をきっかけに、はっきりと「核ゴミ最終処分場の文献調査」への反対の意志表明をしたことは画期的なことだと思います。
核ゴミ問題は、いま最終処分場の文献調査が問題となっている寿都町・神恵内村だけの問題ではなく、北海道全体で考えるべき問題であるとして始まった「核ゴミ問題を考える北海道会議」ですが、広く道民的な論議していく場合には、歴史的にこの北海道の大地と深くつながってきたアイヌ民族をはじめとする先住民族の方々も含めて論議し、考えていかなければならないことを確認することができた有意義な集会になったと思います。(文責・かわはらしげお)